魔王との邂逅

 今日は、実に幸せな一日であった、あの瞬間までは。
 夜、11時前くらいだろうか。名古屋駅を出て東山線に乗り、本山にて名城線に乗り換えた。本山駅名城線ホームで11分接続という名古屋クオリティに直面していたその時、ものすごく見覚えのある顔が目の前を横切る。それも、一度みたら忘れられない、あの顔だ。
 その顔の持ち主は、私にはよくわからないファッションで佇んでいた。言っておくが、私はファッションには無頓着である。その私から見て、あきらかにおかしい格好であったのだ。具体的には、黄色の、それも真っ黄色のポロシャツ、青紫の短パン、抹茶色のソックス、黄土色のシューズ。どこからどう見ても不審者そのものである。
 なぜ、Aが・・・それが一番最初に思ったことだった。彼は確か3浪の末、東京の某理科大に進学したハズ。順調に進級していれば4年次に在籍しているはずなのだが・・・しかしながら、東京暮らしの私も帰省ということで現に名古屋に居るわけだから、Aが名古屋にいてはいけない理由は全くない。
 次に考えたことが、人違いではないか、ということであった。この世には3人自分と似た人がいる・・・いくら特徴的な顔をもつAといえども例外ではないだろう。
 確認を取りたかった。けれども、その行為は明らかにリスキーである。A本人であれば、AEC後輩という自分の身分を喋らざるをえなく、Aのことだから、自分はAEC後輩に有名なのだと絶対にいい意味で解釈してくれるだろう。有名なのは事実なのだが・・・・・・ただAがそれでいい気分になるだけならまだいい。そのおかげで来年のFDに参加などという事になったら、わたしはAECの皆様にどうお詫びすればよいのだろう。万一、人違いであれば、それもそれでどうだろうか。繰り返す、その人物は黄色のポロシャツ、青紫の短パン、抹茶色のソックス、黄土色のシューズという私には理解できない格好でいたのだ。普通な人である可能性は低いであろう。
 そうこう考えているうちに私はその人物に何か声を発してもらいたいと思いはじめた。Aの声は特徴的で、そう、Aのウザさの何割かはそのウザい声に拠っていると言っても過言ではないだろう。声と顔が一致すれば、まずまちがいなく本人と断定できる。特に、声も顔もあまりにも特徴的すぎるAなのだから。色々と方法を考えた。彼にぶつかってみる、彼の前にちょっと物を落としてみる、このあたりの地理について聞いてみる・・・しかし、悲しいことにどれも実行に移す勇気が私にはなかったのだ。
 しかし、その時は訪れた。自分が乗る電車の接近放送が流れる。そのとき、ベンチに座っていた彼は、私が総てを解決に追いやる行為を行なった。
 「よいしょっと」・・・彼は確かにそう言って立った。しかし、私にとってはそれで十分だった。そのことで私は彼が間違いなくAであるということに確信をもてたのだから。



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